Little AngelPretty devil
     〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “蛍を追って…?”
 


昼間の途轍もない暑さも少しは遠のいて。
大路の入り組んだ都から離れた場末、
風に揺れる木立ちの梢のざわめきをくぐり抜けたそこには、
不意に頭上があっけらかんとひらけた空間が現れる。
周囲の草いきれの青い香を、どんどんと透かしてゆくのは、
紛れもなく水の匂いで、

 「川、いや…泉か?」

月はとうに去ってしまったものの、
星影をその表へと映して、ちりめんのような細波が立つ。
よほどに綺麗な水なのだろう、蛍もようよう宙を泳いでいて、
なかなかに清かな風情。
こんなところにこんな泉なんてあったっけかと、
仄かに怪訝そうに小首を傾げる術師の青年の様子を察したか。
此処までを、宙へと身を浮かせての御主を抱えて導いた蜥蜴一門の総帥殿、

 「人間には入り込めない結界の中だからな。」

(ごう)という輻輳結界を張った場所。
すぐそこに見えているのに実は幾重にも時空の断層が挟まっていて遠かったり、
逆にほんの間近にあるのに見えも感じも出来なかったり。
そういう空間を、様々な大妖が逃げ場や隠れ家としてこそりと作っているらしく。

 「へぇえ〜。」

この時期の水の傍ともなれば、
涼しいどころか却って蒸し暑くてならないはずが、
これもその結界の作用のせいか、
特に青臭くもない風が頬へとそよいでくるのが心地よく。
一応の術式に必要だった衣紋の厚絹が、
何とも鬱陶しくなったらしい蛭魔としては。
長綬と呼ばれる佩を絹を鳴らしての引き解き、
あっと言う間に袍という前合わせの外着の懐ろをくつろげると、
ばっさとかなぐり捨てる大胆さを見せたほど。

 「うあ、涼っずしい〜vv」
 「…お前ね。」

何だよいきなりマッパになった訳でなし。
それとも何か、ちょっとは期待してたとか?
俺みたいな骨と皮なんぞ見たって面白くも何ともなかろうによ…なぞと、
相変わらずの立て板に水、滔々と言い並べる蛭魔だったのは。
放り投げられた袍を受け止めた葉柱が、
微妙に口許をたわめたからだったが、

 「な、なんだよ、それっ。////////」
 「………そっちこそ何だその顔は。」

泉の女神の御出來でもあんめいし、と。
いきなり顔を赤らめた彼だったのへこそ、面食らった術師殿。
冗談抜きに、まだ小袖と袴は身につけているにもかかわらず、
だというに…葉柱が見せた、いきなりの百面相の意味が判らずで。
ほれ貸せと袍を取り戻そうとしかかったものの、
間合いが悪かったか、双方から引かれた衣紋はびいっと不吉な音を立て。

 「あ……。」
 「〜〜〜〜っ

袖がはらりと引き千切れての、右と左へ泣き別れしたのへ。
お前なぁっと今度こそお怒り見せかかった蛭魔だったが、

 「す、すまんすまんっ。」

今度は葉柱が、その上着、漆黒の狩衣を慌てて脱いだので、

 「あ…。」

ああそっかと、
やっとのことにて…先程 彼の見せた動揺の意味合い、
ちょっぴり判った陰陽術師殿。
確かに“素っ裸”じゃあないけれど、
それでも…小袖なんていう薄着を透かす
体の輪郭の稜線は、随分とあらわになるものだから。

 例えば今だと、
 それは雄々しい誰かさんの、
 胸板の厚みやら、喉元から連なる蠱惑な肉感の陰影とか、
 男臭くて精悍な色香が。
 泉のおもての細波のような光や、あたりを舞う蛍火に淡く照らされ、
 何とも妖しく見えてしまって…

 “もしかして…”

これってこいつが女くどく場所なんかな。
自分や相手がその気になるようにって
雰囲気出る仕掛けとか術とか施してたとか?
でもでも、先にあたふたしたのはこいつの方だし、

 「???」

俺なんかの細いばっかな体見て、
何を慌てふためきやがったんだろうかと。
そこが判らんというか、辻褄が合わぬと小首を傾げる陰陽師様。
とりあえずは、人をじかに触れぬ虫みたく、
狩衣で覆い隠そうとしている不届き者へ、

 「させるかよっ。」
 「あ、こらっ。」

衣紋へ自分から飛び込んでやり、ばふりと相手の懐ろへまで。
その身、押し込んでやっての飛びつけば、
こうまでごつい奴が あわわと後ろざまに倒れる呆気なさが可笑しくて。
ついでに…衣紋越しになったから
ちょっとは落ち着いて触れられた、
相手の雄々しい胸元へ、そおと頬を押し当てて、
こそりと甘えた蛭魔だったりしたのであった。





  〜Fine〜  11.08.08.


  *すぐ前のお話の続きですvv
   何だかんだ言って、単にいちゃこいてるだけのお二人さんでvv
   泉の女神様に叱られても知らないよ?
(笑)

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